ハンドパンのメンテナンス

イントロダクション

ハンドパンをどのようにメンテナンスしていますか?高価な楽器です。正しい知識でお手入れしていきましょう。ハンドパン専用メンテナンスオイルメーカーPhoenix社のBenny氏とのインタビューや、Rivera Steel Tuning(元SarazのチューナーJosh氏のチューニング工房)が発表したPure Sound Waxについても、より詳しく掘り下げたいと思います。

Youtubeチャンネルを正式にスタート!

今回は、ハンドパンについて情報発信しているブログ「Master The Handpan(英語)」をベースにしています。ぜひ原文にも目を通して下さいませ。

それではよろしくお願い致します。

楽器は呼吸をする


出典:360training

みなさまは楽器をどのように保管していますか?

例えば、ピアノ屋さんの倉庫やコンサートホールの楽器保管室などでは、24時間空調と除湿器(夏場)、加湿器(冬場)を使用するなどして室内環境をコントロールしています。さらに空調が直接当たらないようにしたり、床暖房を避けるなど楽器に細心の注意を払っています。

ハンドパンも環境で音が変化するとても敏感な楽器。特に日本の夏場はヨーロッパやロシアに比べ湿気大国です。ケースの中から出して風通しの良い場所で保管するのが望ましいでしょう。

私たちのスタジオでは夏場はシーリングファン(天井扇風機)を24時間稼働させて、タブラクッションの上に一台一台パンを保管しています。

2つのメンテナンス方法


出典:Spyrospan

次はメンテナンスです。

  1. プレイの度に汚れを拭き取ること。
  2. 定期的にメンテナンス(オイル、ワックスなど)をすること。

ケアを怠ると大事な楽器の輝きも失われてしまいます。丁寧にメンテナンスすることで愛着が生まれ、それに応えるように音色も自分に近づいてくるような気がします。

革製品のように手入れしながら使い込むことで、自分に馴染んでいくのも楽しみの一つですよね。Cherish(チェリッシュ)な気持ちを忘れずに!

それでは上記2つの方法を詳しくみていきましょう。

(1)プレイの度に汚れを拭き取ること


出典:ThriftyFun

毎回のプレイの度に楽器表面についた手指の汗や皮脂を綺麗に拭き取ることが大事です。プレイ中は指先に汗をかいています。楽器に付着したまま放置すると錆びの原因になります。

マイクロファイバークロスで乾拭きするだけも汚れは落ちます。さらにアルコールスプレーを染み込ませたマイクロファイバークロスで拭き取るとても綺麗になります。私たちは使い勝手の良いパストリーゼを愛用しています。


パストリーゼ+マイクロファイバークロスの組み合わせは、日々のお掃除にも大活躍なので本当にオススメです。

次にオイルメンテナンスへと続きますが、上記方法だけでも楽器を綺麗に保ち、劣化を防ぐ必要なお手入れだと思いますので、必ず実践しましょう。

(2)定期的にメンテナンス(オイル、ワックス)

メンテナンスオイルやワックスは月に1度程度を目安に塗布しましょう。一気に艶が生まれます。

例えるなら、上述した

(1)の日々のお手入れはお化粧する人にとってのクレンジング(メイク落とし)でその日の汚れをオフするイメージ。
(2)のオイルメンテンスはすっぴん肌に適度な油分補い保護するイメージでしょうか。

サビ防止はもちろん、定期的にメンテナンスとプレイを繰り返すことで音質がより柔らかく、耳に馴染むようになってくると思います。メンテナンスは楽器とプレイヤーをより一体化させるとても大事な行為の一つです。


出典 : Hardcase Technologies

メンテナンスは日々のお手入れ同様、汚れの拭き取った後に行います
前回メンテナンスした時のオイルやワックスをアルコールで拭き取ってから行いましょう。

どのメンテナンス製品を使えば良いのか?

まずはお手持ちの工房メーカーが推奨している方法を確認しましょう。年代、材質など、写真添付の上、工房に問い合わせましょう。

Siu Suetさん所有のEra Haloというハンドパンでは、表面加工処理が通常モデルとは違うため、メンテナンスオイルは使わずにアンモニアフリーのガラスクリーナーを推奨している例もあります。何かメンテナンス製品を使用した後に音質に違和感を感じた場合も含めて、工房メーカーが推奨している方法を必ず確認しましょう。

さて、ハンドパンのメンテナンスオイルには過去にテストされているものもあります。ここではオイルについて少し踏み込んで学んでいきます。

【乾性油】
空気中に放置すると酸化されて固化・乾燥しやすい油。亜麻仁(あまに)油・桐油・大豆油などの植物油。主成分に不飽和脂肪酸を含む。

固まってしまうオイル。ハンドパンのスティール内部で固化されてしまったえらいことです。乾性油でのメンテナンスは避けましょう。

【不乾性油】
空気中に放置しておいても酸化せず、固化したり乾燥したりしない油。オリーブ油・椿(つばき)油・ひまし油・落花生油など。

固まらないオイル。不乾性油をケアオイルとして使用する場合は各特性を理解しておきましょう。

例えば、冬場の台所ではオリーブオイル(未精製)が白濁して固まっていることがあります。これを楽器に塗るというのはやはり良いとは言えないと思います。

お客様の中には、DIYセンターで販売されている防錆スプレーやコンパウンドを含まないカーワックスを試されている方もいます。しかし、ハンドパンは指先で演奏する打楽器ですので、プレイヤーさんの指先に機械専用オイルが付着するのはやはりよろしくないと思います。(特に近くにお子さんがいる場合など)

また、2016-17年頃まで欧米ハンドパン界では銃メンテナンス製品が好んで使用され、以前はハンドパン工房からも推奨されていました。(今も推奨している工房もあるのですが)

今はほとんどのメーカーがイタリアのハンドパン専用メンテナンスオイルメーカーである「Phoenix Oil」と米国のSaraz元チューナーJosh氏が製作している「Pure Sound Wax」推奨をしています。

Phoenix社Benny氏にインタビュー


Phoenix Oil
www.phxoil.com

Phoenix社はミラノ在住のプロのハンドパン奏者であるBenny Bettane氏とAlessia氏が開発したハンドパンのためのオイルメーカーです。

Phoenixオイルが生まれた背景はとても興味深いです。David Charrier氏が運営しているMaster The Handpan(英語)より、私が感銘を受けた箇所を以下抜粋致します。

Master The Handpan Blog (9th,Nov,2017)
How to protect my Handpan from rust ?

Q:どうしてメンテナンスオイルを作ろうと思ったのでしょうか?

Benny氏:私たちはハンドパンのメンテナンスに某銃製品用オイルを使っていましたが、同時に健康問題も経験していました。匂い、音質面、粘り気、フィーリングなどに疑問を感じていました。また何よりも武器産業をサポートすることは間違っていると強く感じていたからです。

化学者の友人に相談し、匂い、身体、そして最も重要である「楽器にとっての健康」を作り出しました。この製品に辿り着くまで1年半の歳月をかけて研究し、テストを繰り返しました。そして、私たちがハンドパンのために思い描いた製品が完成したと信じています。当初は自分たちだけで使用を考えていましたが、効果にとても満足していたので、世界中で共有すべきだと決心しました。(原文より抜粋翻訳)

丸いブログでは、さらにBenny氏に詳しくインタビューを行いました。とても参考になるお話でしたのでここでシェアさせて下さい。

○:こんにちは

Benny氏(以下B):こんにちは

○:ハンドパンのオイルについて聞きたいのですがよろしいでしょうか?

B:もちろん。

○:オリーブオイルや銃製品用オイルなどを使用するプレイヤーもいるのですが、Phoenix Oilは一体何が違うのか教えて頂けないでしょうか?

B:Oh No プリーズ。オリーブオイルはワーストだよ。私たちは何度もテストしたんだが、オリーブオイルはワーストの一つでした。

○:そうだったのですか。

B:オリーブオイルは酸性であり、また金属の細孔に容易に浸透していく。不純物が内部に残ることになりハンドパンの音に影響すると思います。

○:銃製品用オイルはどうなのでしょうか?

B:銃製品用オイルは臭いです。多くのハンドパンプレーヤーのガールフレンドや妻は家では使用させてくれないほど。頭痛を引き起こす匂いだけでなく、触れると皮膚に発疹も出る人もいる。パートナーのAlessiaはとてもそれに苦しんでいたんだ。また僅かな不純物をスティール内部に残すので(銃製品にとってはそこまで問題ないことかもしれないのですが、)楽器にとっても良くないと思っています。(詳しくはHCT製作の下記動画を参考)

Phoenix® (Handpan Oil Review)-Rust Care for Handpan & Steel Drum (Italy,2016)

B:知りませんでした。それではココナッツオイルはどうでしょうか?

B:ココナッツオイルは粘着性で重たいオイルです。いったんスティールの細孔に入りこむと取り除くのは難しいと思います。さらに内部に入り込んでしまうと環境による温度差で凝固したり液化したりする。私たちはこの状態で楽器を演奏するのは健全ではないと思っています。

○:ありがとうございます。最後に日本のハンドパン奏者へ一言お願いします。

B:ハンドパンやRav DrumのケアオイルにはぜひPhoenix Oilを使って下さいね。

Phoenix Handpan Care Oil(フェニックスハンドパンケアオイル)とは:
天然成分で抗菌効果を持つエッセンシャルオイル。ほこりや汚れを取り除き、不純物を残すことなく表面に保護バリアを作り、表面に光沢ある仕上がりを形成します。特殊配合によって生まれるレモングラスの匂いは自然な香り。人体に攻撃的な成分、または酸性物質などは含まれていません。(公式サイトより抜粋翻訳)


如何でしたでしょうか?唯一のハンドパン用のメンテナンスオイルを製作されている方のインタビューということで、やや偏った(Phoenix社製品を推薦)内容になってしまったのは大変申し訳ないのですが、私自身フェニックスオイルにとても満足しているだけでなく、フェニックスオイルが生まれた背景にとても共感しています。

ハンドパンの再チューニング

www.riverasteeltuning.com

ケアしてたつもりでも問題が発生した場合、購入先や工房に連絡しましょう。連絡がつかない場合はリペア専門の工房も生まれています。

米国Saraz Handpanのチューニングチームに在籍していたJosh Rivera氏は、Rivera Steel Tuningというハンドパンのリペアと再チューニングを行なっています。基本的にどのパンでも受け付けてくれると思うのでとても頼りになりますよ!

Welcome to Rivera Steel Tuning (US,2018)

Pure Sound Wax

ハンドパン専用のワックス「Pure Sound Wax」もJosh Rivera氏が製作したものです。ステンレス素材のハンドパンにも相性が良く、彼によると高音の鳴りが良くなるとも言われています。

開発秘話として、Josh氏はオイルを塗る前と後では音質を低下、何よりもサステイン(音の伸び)が消滅してしまうことに違和感を感じていたようです。彼は石油を含まない無香料の天然ワックスを製作を目指したそうです。過去に楽器に使用されたワックスを研究し、音質に影響を与えないことが証明されている天然成分でワックスを作ることに成功したとのこと。(公式サイトより抜粋)

(また同時に「ワックス後に音に違和感を感じた場合は、アルコールで落としてください」とも表記されています。)

Pure Sound Wax

Pure Sound Wax Application Demo(US,2018)

まとめ

如何でしたでしょうか?各工房によって素材などが違うため、はっきりとしたメンテンス方法が確立されていないため難しいところではありますが、「保管場所に気をつけること」、「プレイ後にはクロスでクリーニングすること」、「オイル、ワックスでメンテンスをすること」の3点について述べさせて頂きました。

そのため、音質面でのケアに力を入れていること、防錆、匂い、皮膚への影響なども含めると、今のところメンテナンス製品に関してはPhoenixオイルPure Sound Waxを推薦したいと思っています。 (もちろんメーカー付属のメンテ製品があるのでしたらそれを優先して使用しましょう。

2Handpans, Phoenix Care Oiled (France,2017)

Happy Handpan Life!

Youtubeチャンネルを正式にスタート!

ブログよりも早く、色々な情報をリアルタイムで発信しています。

【参考記事】
Hardcase Technologies Blog (23th,Jan,2018)
Phoenix Handpan Oil Rust Protection- Test and Review.

Master The Handpan Blog (9th,Nov,2017)
How to protect my Handpan from rust ?

RIVERA STEEL TUNING
Why Pure Sound Wax?