ハンドパンのマルチプレイ- Mixed in Scale

出典:John Coltraneの五度圏表より
https://roelhollander.eu/

イントロダクション

初めてハンドパンを触った新鮮な気持ちを覚えていますか?高額な楽器なはずなのに、1台所有してしまうと、2台目も欲しくなってしまいます。

生産工房によって特徴が大きく異なることや、スケールが固定されているなど理由は様々。ハンドパンはピアノのように一家に一台というわけにはいかないものです。

その音に魅了されれば次から次へと欲しくなってしまいます。それはまるで一眼レフカメラのレンズのよう。

今回の丸いブログでは2台目購入をポジティブに捉え、お手持ちの1台目のスケールを拡張させるヒントをシェアしたいと思います。

また最後には2016年以降に出現した新しいコンセプトのハンドパンについてもお話したいと思います。それでは最後までよろしくお願いします。

スケールを合わせるとは?

アトリエマルが運営するStudio○(スタジオマル)へ来られるプレイヤーさんで一番多い質問はこれです。

「どのスケールとどのスケールが合うのでしょうか?」

「Dマイナーを所有しているが、2台目購入するならどのパンが良いか」「3台目を持つならOnoleoスケールのような奇をてらったモノが良いのか」などもあります。

1台のみで演奏するなら気に入ったスケールを集めるのもいいかもしれませんが、複数台で同時プレイを希望する場合はスケール合わせに知識が必要です。複数人でハンドパンセッションするときのKey(キー)合わせにも重宝します。その場合スケールが合うか合わないかを確認せずに購入してしまうのはとても勿体無いです。

今回紹介するのは音楽理論的な意味で「このスケールとこのスケールは合わすことができる」という一つの提示です。ご参考になれば幸いです。

DJから学べ – ハーモニックミキシング –

さて、「スケールを合わせる」とはどういったことなのでしょうか?その答えは現代DJの選曲にヒントがあります

「アナログレコードDJ」から「デジタルPCDJ」へと移行され、現代DJたちはノートPCで楽曲管理ができるようになりました。中でもとりわけ強力なツールが以下の2つ。

音楽ファイルのメタデータにキーを記憶すること。
次に合うキーの曲をレコメンド(推薦)してくれること。


出典 : キー解析ツール「Mixed In Key」より
https://mixedinkey.com/

現代DJたちはプレイ前に音楽ファイルを解析しキーをソフトウェアに書き込みます。キーが分かると次の曲に合うキーが膨大な曲から絞ることができるからです。

「機械でなく感覚を頼れ」とアナログDJの方からは野次が飛んできそうですが、現代DJは耳を貸そうとはしません。彼らは曲を繋いだ後に空気感が大きく変化しないよう「キーを押さえておく」ことに注意を払っているのです。

出典 : Mixed In Keyが五度圏表(Circle of fifths)を元に作成
https://mixedinkey.com/

上の表はハーモニックミキシングと呼ばれています。西洋音楽理論の五度圏表(Circle of fifths)をベースに作成されています。
(例えば、E-Majorのことを12Bと記されていますが、これはDJソフト上で一目で次に合うキーを選択できる便宜上のもの)

五度圏表(Circle of fifths)とは:時計回りに完全五度の関係にある表のこと。

繰り返しになりますがハンドパンのチューニングも五度ハーモニクスを意識しています。5度(Fifth)というのはとても重要なワードなのですね!

TonefieldのC(ド)をチューニングには下記3つ音が含まれています。

根音:C
8度(オクターブ):C
5度(オクターブ+5度):G
ハンドパン道場(DoJo)オープン』より

さて、この五度圏表(Circle of fifths)どのように使うのでしょうか?次からは実際に欧米トッププレイヤーたちのスケールセットを解剖していきましょう。

例1 : Kabeção氏のHandpanセット

Kabeção – Sun of God(IL,2017)

2017年に発表されたKabeção氏の傑作アルバム『Touching Souls』よりF#マイナーのSunpanを主体としたセットは以下の通り。

メイン楽器:F# Minor(Sunpan)
(F#) C# E F# G# A C# E
サブ楽器:C# Annaziska (Asachan)
(C#) G# A B C# D# E F# G# [B, C#]
サブ楽器:B Onoleo(Halo)
(B) F# G B D# E F# G B

3分35秒あたりからC# AnnaziskaからDing「C#」が追加され、
4分30秒あたりから中盤から後半にかけてB OnoleoからDing「B」が入ってきます。

Sunpan1台だけでは成し遂げることができない壮大さを表現する隠し味には「C#」と「B」のDingが重大な役割をしています。
ハンドパンの中でも一番リッチなサウンドが奏でることができるDing異なるDingでハーモニー(和音)を作ることができるようにセットすることが重要です

構成やリズムパターン、テクニック、メロディなど別次元に飛ばされる代表曲『Sun Of God』。五度圏表を使って具体的にスケールの関係性をみていきましょう。

スケールアナリーゼ


メイン楽器:F# Minor(トニック音)
サブ楽器:C# Annaziska (下属調 《サブドミナント》)
サブ楽器:B Onoleo(属調《ドミナント》)

メインとなるキーのF#Minorに対して、C#Minor(下属調 《サブドミナント》)とB Minor(属調《ドミナント》)がセットされているということ。そのため、メインキー(Key)であるF#Minorの音階がさらに掘り下げることができたのです。

音楽理論を勉強されたい方は下属調 《サブドミナント》や属調《ドミナント》の効果についても覚えておきましょう。絶対損はないです。
ハンドパンを材料に音楽理論を勉強していくのは、とても理にかなっていると思います。

事例2 : Philippe Gagne氏のRav Drumセット

Philippe Gagne – Brumes (Rav Drum)(Canada,2016)

2016年に発表されたPhilippe Gagne氏による楽曲『Brumes』はRav DrumのDメジャーを主体としたセットは以下の通り。

メイン楽器:D Major(Rav Vast 2)
(D) G A B C# D E F# A
サブ楽器:G Pygmy (Rav Vast 1)
(G) C D D# G A# C D F
サブ楽器:B Rus(Rav Vast 2)
(B) D F# A C# D E F# A

左右に配置されたサブ楽器G PygmyのDing「G」とB RusのDing「B」でコード進行を作り、
メイン楽器はDメジャーのTonefiledでメロディを組み立てていきます。

DメジャーのDing「D」が叩かれるのは楽曲後半の2分45秒から。今まで封印されていたメジャー音階が後半に解放されたように突き上がっていく構成は心動かされます。

Dメジャー1台だけでは成し遂げることができないこの構成。「G」と「B」のDingが重大な役割をしています。こちらも五度圏表を使って具体的にスケールの関係性をみていきましょう。

スケールアナリーゼ


メイン楽器:D Major(トニック音)
サブ楽器:G Pygmy(属調 《ドミナント》)
サブ楽器:B Rus (平行調《レラティブ》)

メインとなるキーのD Majorに対して、G Pygmy(属調 《ドミナント》)とB Rus (平行調《レラティブ》)が左右にセットされているということ。そのため、メインキー(Key)がD Major音階にも関わらず、序盤に独特なマイナー感を出すことができたのです。

先ほどのKabeção氏と違い、Philippe氏は平行調スケールを大胆にセットに入れることで、音楽的な奥行きが広がりました。

Circle of 5ths, 5th Edition
カテゴリ: ミュージック
現在の価格: ¥840

 

Rav Drumには同じ平行調であるBマイナー ⇄ Dメジャーに関係するスケールが多くあります。改めて整理しておきましょう。

Rav Drum Scale Gradation with Piano[B-Minor to D-Major](Japan,2018)
Bマイナー(短調)からDメジャー(長調)へのグラデーション

また、ハンドパンスケールを選ぶ時にはメインキー(Key)の属調 《ドミナント》下属調 《サブドミナント》だけでなく平行調《レラティブ》についても押さえておきましょう。

【用語】
平行調《レラティブ》:メジャー調を基準とした3度下のマイナー調。
属調 《ドミナント》:主体となる音の5度上(完全五度)
下属調 《サブドミナント》:主体となる音の4度上(完全四度)

次は上記2つのスケールセットの事例として、ハンドパンのマルチ(複数台)プレイについてスケールを選ぶポイントをまとめてみました。ご参考ください。

ハンドパンのマルチプレイ – スケールを選ぶポイント-

繰り返しますが、2台目のハンドパンを探されている方は購入前に音楽理論の知識を少しだけ勉強しましょう。

1)自分が演奏する主体となるメインキー(トニック音)を決める。
2)メインキーのDingに対する「平行調(レラティブ)」「属調(ドミナント)」「下属調(サブドミナント)」のパンを選ぶ。

例) C# マイナースケールのハンドパンを所有のケース
C# minor:基準(トニック音)

左側のF# minor下属調 《サブドミナント》
右側のG# minor:属調 《ドミナント》
上にE Major:平行調《レラティブ》
3つハンドパンが合うスケールです。

Kabeção氏のように一つのスケールをとことん掘り下げたい場合は、属調 《ドミナント》と下属調 《サブドミナント》のDingの音を入れましょう。(Dingだけでなく付随するTonefiledも合いやすいです。)

Philippe Gagne氏のようにメジャー⇄マイナーを行き来する構成を練りたい場合、平行調《レラティブ》のDing の音が架け橋になります。さらに安定感ある属調 《ドミナント》や下属調 《サブドミナント》のDingを足すことでよりスケールの幅が広がります。

スケールが見つからない!

如何でしたでしょうか?皆さまのスケール選びのサポートができましたでしょうか?しかしながら冒頭で述べたように、これも一つの提示に過ぎません。

人気スケールであるC# YshaSavitahをお持ちの場合を考えてみましょう。


例) C# YshaSavitah(C#メジャースケール)を所有のケース
C# Major:基準(トニック音)

上のF# Major下属調 《サブドミナント》
下のG# Major:属調 《ドミナント》
左にA# minor:平行調《レラティブ》
3つハンドパンが合うスケールです。

Aphex Twinの名曲Nannou2はG#メジャーの和声進行が続くピアノ曲。C# YshaSavitahスケールで合わせることができるか試してみましょう。属調関係なのでバッチリ合うはずです。

Nanou 2” by Aphex Twin (Album Drukqs) *HD* (UK,2001)

しかし、ハンドパンでとなると、G#メジャーA#マイナーなどはあまりポピュラーでないため工房でオーダーメイド製作するしか入手手段がないのが現状です。
代案としてですが、スケールで合わせるのではなく、和音構成で合わせるとなると、かなり選択肢は多くなり、多くのパンに潜在的な要素を持っています。

数音でも合っていれば、メインで演奏される方の補助的な役割で参加することも可能です。
(*和音構成の詳細については楽典を参照)

新しいコンセプトのハンドパン出現

– BassPan –

DuBas ( EchoSoundSculpture )(CH,2016)

今までの文脈を踏まえると、Dingのみで構成されたベース音のみベースパン《Du Bas》の見え方が変わってくるでしょう。

Saraz Handpan G Major and Bass Pan(US,2017)

このようにDingの数をさらに3つ増やすことでコード進行の重心を変化させ、いろんなアングルからアプローチできます。

– Mutant Handpan –

また、2016年よりミュータントハンドパンが出現します。

ミュータント(Mutant)とは:
9音以上音があるハンドパン。今まで完成されたスケールは表現できず、不自由さがありました。(それがハンドパンの魅力でもあったのだが)ミュータントの登場により、スケールの構成を全て満たす音が入っていることが可能となる。

Ding Side(表面)に9音以上の音入れをしたのを呼ぶことが多いですが、Gu Side(裏面)にも音入れされ9音以上あるハンドパンもミュータントと呼ぶこともあります。

このエポックメイキングな発明をしたのはアムステルダム(オランダ)の工房Jan Borren Handpan。(噂によるとKabeção氏の特注オーダーを受けて生まれたということらしい。)

“Golden Mutant” – Jan Borren Handpan(Holland,2016)

私たちアトリエマルオンラインストアでは通常モデル(8-9音)だけでなく、今欧州で主流となっているミュータントモデルも積極的に入荷していく予定です。定期的に覗いて頂ければ幸いです。

現在、ヨーロッパ産の在庫多数ございます。
>>在庫をチェック

まとめ

如何でしたでしょうか?皆さまのスケール選びのヒントになりましたでしょうか?

Philippes氏の楽曲『Brumes』は超絶テクニックという訳ではなく、複雑なポリリズムを奏でている訳でもなく、そこまで難しい奏法はしていません。しかし、楽曲構成力が素晴らしいため心動かされます。

打楽器の世界からハンドパンへ入った方々は音楽理論を少し勉強するだけで強力なサポートとなります。それはキーの知識がなかった現代DJたちが音楽ファイルを解析してDJプレイをするように。

– 音楽理論からの自由 –

最後に思いを一つ語らせて下さい。

今までの内容と矛盾するようですが、最終的には「音楽理論の型」にハマらずに皆さまご自身のインスピレーションを大事すべきだと思います。

私が好きなブラックミュージックは楽譜が読めないアーティストがサンプラーやソフトウェアを使って楽曲製作しヒットチューンを連発する世界。逆に、理論だけの知識を詰め込んでコード進行が綺麗になり過ぎても面白味にかけますね。固定概念から脱却するのも大変と聞きます。

黒人HIphopプロデューサーは幼少期から丁寧に音楽教育を受けていたのでしょうか?強引でブロークン(崩れた)なコード進行や少しずれた和音構成が不規則に連鎖していく様は聞いていてゾクゾクする感覚が生まれます。

どういったプレイを目指すかは本人次第ですが、決して「音楽理論の型」にハマらずに、自分が今まで聴いていた音楽を信じてハンドパンで表現してみましょう。きっとオンリーワンな楽曲が生まれるはずです。

Nadishana, new handpan program 2018(Russia,2018)
不規則性とポリリズムから独自の空気感が出るNadishana氏

Happy Handpan Life!!