イントロダクション
目次
今回はアトリエマルが初めてレーベルとしてアルバム制作に取り組んだ経緯とアーティストについてお話ししたいと思います。
倍音人ロードさんをご存知でしょうか?オンラインでハンドパンを販売しているアトリエマルにとってサウンドテストは欠かせません。
うちの楽器のほとんどを試奏して頂いているのが倍音人ロードさんです。
Twiiter
口琴、ディジュリィドゥ、ギター、カホン、ダラブッカ、レクなどありとあらゆる楽器に精通。そして2011年頃からハンドパンを始めて今に至ります。
夢幻(2018,Japan)
自主出版されたセカンドソロアルバム
【廃盤】
2018年発売の『夢幻』はほぼアコースティックギターだけで制作されたアルバム。まずはそのアルバムから一曲をどうぞ!
*これは2019年6月にアトリエマルで演奏して頂いたもの。アルバムの音源とは異なります。カメラのシャッター音などその他雑音が入っています。ご了承下さい。
2019.6.15 Live Recording @ MARU
私はこの曲を初めて聞いた時、メロディは中国彝 (イ) 族口琴を使用した演奏だと思っていたのですが、ギター1本のみで一発撮りだったと聞いて驚愕しました。しかも、ギターのチューニングは弦を5度8度にすることで倍音成分がたっぷり出ているとのこと。
中国の彝 (イ) 族口琴 (2013,China)
四川省にて。Photo by L’ATELIER DE ○
そう、彼は倍音の素晴らしさを世に広めている倍音人(バイオンビト)なのです。
ロードさんによれば、「倍音を抽出する耳」を持てば世界が変わる、身の回りには倍音が溢れていると言います。
例えば、窓からの隙間風、蚊の羽音、蛙の鳴き声‥‥。身近に潜む倍音に耳を傾けることで豊かな視点を持つことに繋がりますよね。
そんな常に研ぎ澄まされた感覚から生まれるロードさんの演奏は、いきいきとした情景が浮かび上がってまるで映画を見ているようです。
彼のハンドパン演奏はパーカッシブで超絶的なテクニックに目が行きがちですが、複雑なリズムパターンの中から垣間見える旋律や、和音の美しさが印象的です。
2019年12月に発表した5 Impromptus and 3 Pieces for Handpan『ハンドパンのための5つの即興曲と3つ小品』は即興曲の傑作集。
どうぞご視聴下さい!CD購入はTwitterより直接ロードさんにご連絡下さいませ。
前置きが長くなりましたが、今回はこのアルバムにまつわるストーリーを紹介したいと思います。最後まで拝読頂ければ幸いです。
First Touch Vol.0
彼の演奏を間近で見たのは中国からSheldon達が遊びに来てくれた2019年5月18日。
ここで倍音人ロード(@didgeridoo_road )さん到着。間髪入れず撮影開始。
ARCANAのCeltic STLモデル。突起したDingと深いDimpleで微かな音揺れを作っていきます。ファーストタッチとは思えないコントロール!
[The First Touch] 倍音人Road – C# Celtic Minor12(ARCANA)https://t.co/gYf9lCif5a pic.twitter.com/wDImVAFckV
— 丸いブログ (@marui_blog) May 23, 2019
Sheldon所有のC# Celtic (ARCANA) を完全にコントロールしたファーストタッチでした。
特に後半の右手でDingを使ってリズムコントロールしながら、左手がスケールを飛び回る奏法は彼のオリジナル。
Road – D Celtic Minor 9 [Namipan] (2019,Japan)
この奏法はCeltic Minorでの即興演奏における彼なりの一つの答えだと思います。2019年7月13日に開催されたFirst Touch #1で演奏されたAYASAのD Celtic Minor11はアルバムに収録されています。(M3)
[2-8]1st Touch #1
ROAD [D Celtic Minor11] (AYASA)
そして、F Majorで即興名曲が誕生。
(Full Verは現在非公開のため、Twitter動画より一部をどうぞ。)
まるで一つの映画を追体験しているよう。うーん名曲。。。
[The First Touch] 倍音人Road(@didgeridoo_road ) – F major 12 (Sacred Rhythm) https://t.co/1dN1D6y7IL
First Touch Vol.0はこれで終了。ご視聴ありがとうございました。 pic.twitter.com/ET7oNaWghO
— 丸いブログ (@marui_blog) May 26, 2019
こちらもSheldon所有のF Major (Sacred Rhythm) 。この日の収録最後に名曲が生まれました。(M4)
冒頭のファンファーレ的な前奏からメインフレーズ、即興で生まれたとは思えない完成度!
ロードさんのハンドパン演奏を生で聞くと映画のように映像が次々と浮かびます。
裏面に音が入っているハンドパンを初めて触る!?
2019年6月3日。MDR Onoleo11(432Hz) のサウンドテストをお願いしました。
11 Notes – (C#) / G# A [A#] [B] C# F F# G# A C#【C# Onoleo11 (432Hz STL Model)】
11音モデルは裏面に2音(A#3、B3)が足されているのですが、なんとこの日が初めて裏面に音入れされたハンドパンを触る日だったようです。
[1st Touch]
MDR Onoleo11 (432Hz STL model) [Japan,2019]
[2nd Touch]
MDR Onoleo11 (432Hz STL model) [Japan,2019]
1st Touch、2nd Touchを経て、裏面も扱い方に慣れてきた3rd Touchに素晴らしい即興曲が生まれました。そのTakeがアルバムに1曲目に収録されています。(M1)
Onoleoはアラビックな世界観(Hijaz)の中にメジャースケールが混在している不思議なスケール。
今日はOnoleoのスケールアナリーゼをしています。
(C#) / G# A [A#] [B] C# F F# G# A C# (C# Onoleo11)
Onoleoは長短の同主調(C#メジャーとC#マイナー)の陰陽混在で不明瞭な曖昧さが魅力的。まるで映画『時計仕掛けのオレンジ』OPのよう。 pic.twitter.com/rCMzx1yVpz
— 丸いブログ (@marui_blog) April 16, 2019
この日の演奏を聞いた後にOnoleoスケールで「即興ではなく作り込まれた楽曲も聴きたい」と思い2週間貸し出して作曲をお願いしました。
OnoleoはAnnaziska (E Sabye) のようにC# MinorとE Majorといった平行調(同じ構成音でメジャーマイナーが分かれる)スケールではなく、長短の同主調(C# MinorとC# Major)が混在したスケール。(具体的にはC# HijazとC# Ysha Savitah)
非常に難解なスケールのため、作曲が難しいハンドパンの一つです。
onoleo、難しかったけどようやく把握しました!!!
なるほどなー!!
これは良いスケールです◎— 倍音人ロード (@didgeridoo_road) June 9, 2019
そして2週間後の雨の日、アルバムのメイントラックでもある『蜃気楼』のRecに成功しました。一発録りです。(M7)
蜃気楼 [Shinkiro] – 倍音人Road (Japan,2019)
Sonobe – Ysha Savita (4th)
彼は2011年から初代Sonobeパンのプロトタイプを所有していた数少ないハンドパンプレイヤー。
Onoleoの1st Touchをレコーディングした2019年6月3日、Sonobe 4thのC# Yasha Savitahも録音しました。(M2)
一聴すると、彼の驚くべきテクニックとメロディセンスに耳がいってしまうのだが、音の粒が生き生きと「呼吸」をして踊っているように感じます。
それはBPMが定まったような正確なリズムの中に、急に中東やインド打楽器のようなリズムフレーズが現れたり、そのフレーズが逆回転したりと即興でしか出てこない瞬間芸術。
RoadさんのCDの2曲目、Impromptus no.2 in C# Ysha Savita
雨上がり、陽が差す中、開け放した縁側から見える濡れたあじさいや庭石が光り、風が吹き、鳥や虫が動き出して…また静かに雨が降り始めるっていう情景が浮かんだ。キラキラ。完全にアウトロに引っ張られてるけど。 pic.twitter.com/TOOCjuro9p— ゆう (@lupilog) March 10, 2020
Akebonoスケールの持ち曲 – Lilliput Step
「Lilliput Step」という曲名がスッと浮かびました。
難しいけど仕上げていくぞー! pic.twitter.com/HwPFvd4WRK— 倍音人ロード (@didgeridoo_road) June 30, 2019
当時、ロードさんはVibeのG Akebono 9でLilliput Stepの作曲中でした。
MDR F Akebono11がアトリエマルに入荷した2019年9月15日にレコーディング。
11 Notes – (F) / [A] Bb C Db [Eb] F Gb Bb C Db【F Akebono 11 (MDR)】
裏面に足された2音(A3, Eb4) も間奏で即興で入れてくれました。こちらも一発録りです。(M6)
(Full Verは現在非公開のため、Twitter動画より一部をどうぞ。)
Road (@didgeridoo_road)さんによるF Akebono11の楽曲『Lilliput Step』
これはEテレでも流してほしい童謡ビート!
Fullでご堪能あれ。
倍音人Road – Lilliput Step [F Akebono 11] https://t.co/12zlIOB3sF pic.twitter.com/Wpu1jQxaVV— 丸いブログ (@marui_blog) September 25, 2019
SabyeのFinale
2019年9月1日。今までの即興曲のストックで構成を考えてアルバム製作を意識し始めました。
最後の曲をE Sabyeで締め括ろうとロードさんに作曲を依頼。この時生まれた曲が『Finale』です。
Road – Finale (take two) E Sabye(Asha10) (MDR)(Japan,2019)
何回見ても天才としか思えないしロード君は本当に全ての動画が素晴らしい。本当に彼にしか出来ない表現しかない。
— masayuki kuroko (@masa_handpan) September 1, 2019
*試行錯誤の結果、アルバムに実際に収録したのはD Sabye verとなりました。(M8)
Junさんにジャケット写真撮影やヘナアートを依頼。その後、2019年12月21日正式にリリースされました。
先日はロードさんのアルバムジャケット撮影でした。アトリエマルで出会った仲間で作り上げていく手作業。思い描いていたものが少しずつ形になっていく瞬間がとても尊い。@sumi112358 @didgeridoo_road pic.twitter.com/Cv82x0lXn8
— 丸いブログ (@marui_blog) November 6, 2019
まとめ – 「Less is more」
数々のロードさんのレコーディングに立ち会ってみて感じることは、彼が即興演奏に非常に長けたアーティストだということ。
アルバムに収録されている楽器は彼所有のものではないのです。全て借り物であり、またその多くはFirst Touchで構成されています。
序盤にスケールチェックを行いながら音の配置や和音を確かめたと思ったら、、、もう楽曲はスタートしている。そして、毎回違う物語が生まれている。
[Satya Sound Sculptures](2020,Japan)
彼の「引き出し」の多さはどこからきているのでしょう? それは彼のある一言から伺えるのかもしれません。
「8音モデルをとにかく叩き込んだんですよ」と。
彼は2011年からG# Hijaz 8やG# Harmonic Minor 8 というとても扱いにくいスケールを何年も叩いていたのです。そこで、リズムや楽曲構成に励んだことが今開花しているのでは?と感じます。
幻のSonobe初代プロトタイプ
(Japan,2014)
2020年以降はきっと音数の多いハンドパンがもっと主流になりつつあると思います。しかし、少ない音数でどれだけ表現できるかを追求することの重要性も常に考えなければならないのだと感じました。
このアルバムを通じてロードさんの魅力を少しでも感じてもらえると嬉しいです。
Happy Handpan Life !!
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